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中小企業の経営権争奪

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中小企業、同族企業で経営権争いが起こると、会社法上認められている株主の権利が濫用とも思えるような形で使用されることがあります。通常の経営をしている限りまず起こらないような(突拍子もないとさえ思えるような)要求がなされることもしばしばです。
次のABC社を例に挙げつつ、会社と株主の間で起こり得る紛争と、その対応と対策をご紹介します。

事例

相談者は、ABC社の代表取締役社長を務めています。ABC社の株式は社長を務める相談者と、相談者の弟がそれぞれ500株ずつ保有しています。
以前は弟もABC社の取締役でしたが、数年前に取締役を解任してからは疎遠となっていました。この間弟は、当然、会社の経営にも携わっていません。

1. 会計帳簿閲覧謄写請求(仮処分)
【相談内容】

この度、突然弟から自分の保有する株式を1億円で買い取ることを求めるような手紙が届きました。
株式買取の申し出を断ったところ、今度は、会計帳簿のコピーを開示するよう求める通知が届きました。
当然、既に取締役でなくなってから何年も経過している弟に見せてやる義理は無いので無視していたのですが、裁判所から何やら書類が届いたのです。どうやら弟は、裁判所に当社の会計帳簿の閲覧、謄写を認めさせるよう申立てをしたようです。

  1. (1)準備期間など
    この相談事例では、弟さんから会計帳簿の閲覧謄写請求を求める仮処分を申し立てられてしまったようです。仮処分が申し立てられると、裁判所で開かれる裁判期日の出席を求められます。この期日は申立人(弟)側の都合で決められ、2~3週間後に設定されることが多いです。
    そのため、仮処分を申し立てられた側(ABC社)は、急いで反論書面の提出準備をして、裁判所に出席することのできる弁護士を確保しなければなりません。
    顧問弁護士がいたほうがよいのは、このようなときのためです。顧問弁護士がいれば、会社の状況も把握しており、迅速に申立てに対応できます。「我が社は裁判所の世話になるようことはない」と胸を張っていても、敵対的な相手に訴えられることは十分にありえるでしょうし、裁判所への申立てを止めることは通常できません。原告(申立人)は準備ができた段階で裁判所に申し立てますが、被告側は、準備の期間もなく反論書面の提出期限を一方的に決められますので、迅速な対応が必要となるのです。それでも通常の訴訟であれば、最初の反論書面の提出まで、1か月から2か月程度、準備期間がありますが、仮処分の場合には数週間程度の準備期間しかないことが多いので、この間に信頼できる弁護士を確保することは至難の業だと思います。
    この相談内容は、実際に当事務所でお受けした内容です(ただし事実関係は大幅に改変しています)。このとき、ABC社は顧問先ではなく、ご相談を受けたのは裁判期日の2日前でした。例えていうと、8月1日に相談を受け、8月2日に答弁書を提出し、8月3日に裁判に出席したという流れです。8月3日の予定は、日程を変更してもらったり、他の弁護士に変わってもらうなどして対応することになりました(なお、その後にABC社とは顧問契約を締結しました)。
  2. (2)仮処分の帰趨
    • ア. 会社法の規整
      会社法433条は、3%以上の株式を保有する株主が、理由を示して会計帳簿の閲覧謄写を請求できることを定めています。閲覧謄写請求に対しては、これを拒絶することができる場合が列挙されており、ABC社としては、拒絶できる場合に当たることを疎明する必要があります。
      ●会社法433条2項が定める拒絶事由
      1. 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
      2. 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
      3. 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
      4. 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
      5. 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
    • イ. ABC社の反論
      (幸運なことに)社長は、「株式を1億円で買い取ることを求めるような手紙」を弟さんから郵送されています。
      この手紙を証拠にして、弟さんの閲覧謄写請求が株式を高値で買い取らせる目的によるもので、「株主の権利の行使等に関する調査以外の目的」(433条2項1号)や「株主の共同の利益を害する目的」(同項2号)であって、拒絶できる場合に当たると主張するべきです。
    • ウ. 仮処分の結果
      仮処分の裁判期日では、裁判所から、拒絶できる場合に当たるとの心証が示されました。他方で、弟さんが大株主であることや計算書類を株主に開示していないことは違法であることは間違いがないという指摘もあり、速やかに計算書類を5年分開示すること、会計帳簿の一部を任意に開示することで和解する決着となりました。このような内容の和解により、ABC社がコントロールできる状況で閲覧等をさせることができたことになります。
    • エ. 仮処分が認められそうなときは
      設例の事案と異なり、仮に閲覧謄写の拒絶事由が存在しない場合、すなわち、仮処分により閲覧謄写を認める判断が出る可能性が高い場合もあるでしょう。今回の事案でも、「株式を1億円で買い取ることを求めるような手紙」が無ければ、仮処分で全面的な開示をしなければならない事態となっていた可能性もあります。
      会計帳簿を全面的に開示せざるを得ない状況に追い込まれれば、弟さんから、あることないことを主張され、会計帳簿を手掛かりとして金銭的な要求をされるおそれがありますので、できるだけそのような状況は避けたいところです。弟さんはABC社の大株主であることは間違いありませんので、ある程度会計帳簿を閲覧等させることはやむを得ないとしても、ABC社がコントロールできる状況で閲覧等させるべきですので、仮処分が認容される事態は防がなければなりません。
      仮処分を申し立てられる前の段階で弁護士にご相談いただければ、適切な見通しのもと、一部開示により仮処分の申立てを思いとどまらせることができるかもしれません。
      裁判所から連絡が来てからご相談に来られる方も多いのですが、裁判になってしまってからよりも、任意の交渉段階でご相談に来ていただく方が早く・安価で解決できることが非常に多いです。
      トラブルが起こったら、問題が大きくなる前にまず弁護士に相談していただきたいと思います。
2. 取締役地位確認

弟から今度は、自分はまだABC社の取締役だから復職させろという手紙が届きました。

弟は、7年前、多額の会社資金を自己の株式投資に流用し大きな損害を出したので、社長である私の権限でクビにしました。弟も悪いことをしているという認識はあったようで、当時ABC社の取締役を続けることは諦めて別の仕事を探したので、今さら何を言っているのかと困惑しています。

たしかに、当社は創業以来一度も登記簿を変更していないので弟の名前はまだ取締役として登記簿に載ったままではありますが、弟を復職させるようなポストはありません。

社長は、弟をABC社の取締役から解任したと述べていますが、残念ながら、弟を解任する適正な法的手続を経ていないために弟から取締役の地位確認訴訟を提起される可能性があります。

取締役を任期途中で解任する方法は、①株主総会決議による方法と、②解任の訴えによる方法の2つです。一般の従業員のように、社長の一存でクビにすることはできません。

しかしながら、本事例で弟は社長権限でクビにしたということですので、これらの手続は踏まれていないようです。そうすると、弟は、法的には現在もABC社の取締役であると考えるべきでしょう。

そして本件の場合、弟は発行済株式総数の50%を有しているため、①の手段、株主総会決議により解任することは困難と思われます。

もっとも、弟には多額の会社資金を自己の株式投資に流用し大きな損害を出したという事情があります。そして、②解任の訴え は、「職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたとき」に行うことが出来ることとされていますので(854条)、ABC社側としては、株主総会を開いて解任の決議を行った上で、これが否決されたところで解任の訴えにより弟を取締役から解任するという手続を取って対抗することになりそうです。

なお、任期が切れているのではないか、と思われる方もいるかもしれませんが、任期が切れたとしても、その取締役が退任することで定款で定めた取締役の員数を下回る場合、新たに取締役が選任されない限り、任期が切れた取締役は引き続き取締役としての権利義務を持ち続けることとされています(これを「権利義務取締役」ということがあります)。

そのため、任期が切れているがいまだに取締役の権利義務を有しているという状態であれば、定款所定の員数になるように取締役を補充するという方法を採ることになります。

ただし、特例有限会社の取締役には任期が無く、一度選任されれば解任されるまで取締役であり続けることになりますので、任期満了による取締役の退任はありません。

3. 不当解任の損害賠償請求

(承前)株主総会決議により取締役を解任することを考えている場合は、これを不当解任として損害賠償を請求される可能性についても考慮に入れる必要があります。

法は、株主総会の決議によって解任された役員は、”その解任について正当な理由がある場合を除き”、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができると定めています(339条)。この「損害」には、残存期間中の役員報酬が含まれることはもちろん、場合によっては、役員退職慰労金や賞与も含まれます。

ただし、法令・定款違反行為はこの「正当な理由」に含まれると考えられるところ、会社の資金を自己の株式投資に流用した事実は立派な犯罪行為(横領)であり、役員を解任するに値する「正当な理由」になりそうですから、本事例におけるABC社は弟から不当解任の損害賠償を請求されても弟の請求は認められなさそうです。

そうとはいえ、そのような訴訟を起こされることそれ自体がリスクといえますので、怪しい動きがあれば証拠を押さえることを意識しておくことが望ましいでしょう。

4. 株式買取請求、非上場会社の株価算定手法

(承前)本件で、弟は自己の保有する株式を1億円で買い取ることを求めていました。

しかしながら実は、株主には、会社に対して自己の保有する株式を買い取るように請求する法律上の権利はありません。

もっとも、次に述べる方法によって、事実上、株主が会社に対して株式の買取を請求することが可能となっており、会社には、難しい対応が求められます。

(1)譲渡承認請求・株式買取請求とは何か?

株主は、株式を取得する対価として出資します。

株主が株式によって金銭的満足を得る方法は大きく2つあり、ひとつは配当金を得る方法、もうひとつは出資時(取得時)よりも高い金額で株式を売却する方法です。

譲渡制限株式とは、会社の承認が無ければ第三者へ譲渡することが出来ない株式をいいます。非上場会社の株式の多くは、譲渡制限株式です。

譲渡制限株式は、頻繁に市場で売買される上場株式と異なり、株式を市場で売却して現金化することは極めて困難ですが、会社が譲渡制限株式の株主からの譲渡承認請求を不承認とする場合、譲渡承認請求をした株主は、会社に対して自己の株式を買い取るように請求できることとしています。

譲渡承認+株式買取請求というこの手段は、譲渡制限株式の現金化手法としてよく用いられています。

配当性向が低かったり株主がまとまったお金を必要とした場合、当初の株主(出資者)が亡くなり相続人が株式を現金化しようとする場合、あるいは出資した時点では良好な関係であったが後に不仲となった場合など、株主から株式の買取を請求される事案は少なくありません。当事務所でも、これまでに複数の企業様からご相談をお受けしています。

(2)譲渡承認請求がされた場合に必要な会社の対応

株主から譲渡承認請求がなされると、会社は、定款に別段の定めがない場合、取締役会設置会社の場合は取締役会決議により、取締役会非設置会社の場合は株主総会普通決議によって譲渡を承認するか否かを決定し、2週間以内に株主に対して結果を通知しなければなりません(会社法139条、145条1号)。2週間以内に不承認通知がなければ、譲渡を承認したものとみなされます。

譲渡承認請求に際して、買取先指定の請求(株式買取請求)が一緒になされていると、会社が譲渡を不承認としようとするときは、その譲渡対象株式を会社または会社の指定する指定買取人が買い取る義務が発生します(140条1項)。

したがって、会社は、譲渡を不承認とした場合、会社と指定買取人のどちらがその株式を買い取るかを決定する必要があります。この決定は、取締役会設置会社の場合は取締役会決議により、取締役会非設置会社の場合は株主総会特別決議によることとされています(140条2項、5項及び309条2項1号)。

指定買取人が買い取る場合には不承認通知から10日以内に、会社が買い取る場合は不承認通知から40日以内に、それぞれ株主に対し買取通知をする必要がありますが、会社は、この買取通知とともに、1株当たりの純資産額×譲渡株式数(簿価純資産額)を供託して供託証明書を取得し、供託証明書を交付しなければなりません(141条2項、142条2項、145条3号)。

期限内に買取通知ができない場合も譲渡を承認したものとみなされます(145条2号)。株主総会招集手続、供託手続なども考えるとタイムスケジュールは非常にタイトですので、スピード感を持った対応が求められます。

(3)株式価格の決定手続

株式の価格は両当事者の協議により定めることができるほか、当事者双方に裁判所に対して売買価格決定の申立てをする権利が与えられています。会社からの買取通知から20日以内にこの申立てがなされると、裁判所での売買価格決定手続に移行します(144条)。

他方で、20日以内に両当事者いずれからも申立てがなければ、供託された金額での売買契約が成立したものとみなされますが、上述のように供託金は1株当たりの純資産額×譲渡株式数(簿価純資産額)として法定されていることから、場合によっては非常に高額となるため、会社としては、この申立を行って裁判所での価格決定手続を経て、株価を下げようとするはずです。特に、買取を行った期の分配可能額がマイナスになると業務執行者に欠損填補責任(465条1項1号)が発生する点にも留意しなければなりません(※)。

株価の算定方式は、大きく分けると次の4つ(5つ)です。会社の配当性向や内部留保次第では、どのモデルを採用するかによって算定される株価が大きく異なることがあります。

  1. 配当還元方式 ~配当還元法、ゴードン・モデル
  2. 収益還元方式 ~収益還元方式、DCF法
  3. 比準方式   ~類似業種比準方式、類似会社比準方式
  4. 純資産方式  ~簿価純資産方式、時価純資産方式

裁判事例では、上記1から4の評価方法を折衷する方法が採用される例が多いです。たとえば、配当還元方式による株価と純資産方式による株価を7:3の割合で加重平均して求めるといった方法です(これを折衷方式(加重平均方式)ということもあります)。

裁判所での価格決定手続により株式の価格が決定すれば、その価格が売買価格として確定することになります。

売買価格が確定したときは、供託金の額を限度として売買代金が支払われたものとみなされます(144条6項、7項)。

売買代金の支払が行われない場合、譲渡承認請求をした株主は、債務不履行により、相当な期間を定めて支払を催告し、売買契約を解除することができます(民法541条)、売買契約が解除された場合、譲渡承認があったものとみなされます(会社法145条3号、規26条3号)。

(※)そもそも分配可能額を超えて買取を行ってしまった場合は、462条1項柱書及び463条1項により、金銭交付を受けた悪意の株主と業務執行取締役が連帯してその額を支払う責任を負うことになります。

(4)譲渡承認請求・株式買取請求の際に検討すべき事項

株式を第三者へ譲渡することを認めるのであれば、会社が株式を買い取る必要はありません。

しかしながら、株主によっては次のような株主権が行使されるリスクも念頭に置く必要があります。したがって会社から見て好ましくない人間が株主になることは避けたいところです。

単独株主権(1株以上) 定款閲覧謄写請求権 31条
株主総会議案提案権 304条
株主名簿閲覧謄写請求権 125条
株主総会議事録閲覧謄写請求権 318条
取締役会招集請求権 367条
取締役会議事録閲覧謄写請求権 371条
株主代表訴訟提起権
(取締役の善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求など)
847条
議決権の100分の1以上または300個以上 株主総会の議題提案権 303条
株主総会の議案要領通知請求権 305条
議決権の100分の1以上 株主総会の招集手続等に関する検査役選任請求権 306条
議決権の100分の3以上
または
発行済株式総数の100分の3以上
業務執行に関する検査役選任請求権 358条
会計帳簿閲覧謄写請求権 433条
役員(取締役、会計参与及び監査役)の解任請求権 854条
議決権の100分の3以上 株主総会招集請求権 297条
議決権の100分の10以上
または発行済株式総数の100分の10以上
会社解散請求権 833条

したがって、株式の買取を請求された場合、会社が断った場合にどうなるか、具体的には、その株主が第三者への譲渡を検討していないか、仮にその第三者が取得すると会社に不都合は生じないか、あるいはそもそも取得を希望する第三者が実在するのか(非上場株式の相当部分は、取得に経済的メリットがないので、第三者がいるというのが単なるブラフという可能性もあります)、といった事情を総合的に検討する必要があります。

会社側としては、株主に言われるがまま応じるのではなく、次のような事項を検討し、戦略的に対応していくことが可能です。

  • ア 積極的に自社株を取得する選択はないか。

    仮に現在株式がオーナー以外の第三者に分散しているとすれば、現在株式の買取を請求してきている株主以外からも、今後同様の請求がなされ、同じように対応に追われる可能性は否定できません。そのため、請求された機会を利用してオーナーに全株式を集中させることも考えられます。方法としては、株式併合、単元株制度の導入、あるいは完全無議決権化、支配株主による売渡請求などがあり、そのときどきの会社の状況に応じて手段を講じることになります。

    自社株の取得は、会社から多くのキャッシュが流出するため短期的にはマイナスに見えても、オーナー企業になることで会社運営の機動力が確保されることは、長期的には、株主総会を実開催する必要がなくなったり、合併等の組織法上の行為や事業上の重要な事項を単独で決定できるようになるなど、プラスが大きい場合もあり得るでしょう。

  • イ 配当性向の見直しにより株主との関係改善を図ることはできないか。

    これまで配当を行っていない会社や利益に比して配当が少なかった会社としては、配当を行うこと、あるいは増やすことに抵抗があるのは当然です。しかしながら、株式投資とは本来的に、「会社に対して投資して株式を取得し、株式数に応じた配当を得る」ものであるため、利益が出ていれば一定の配当を行うべきことはやむを得ません。

    一定の配当によって株主との関係が改善され、会社運営に協力してくれる(あるいは、せめて「妨害しない」)ようになるのであればそれもひとつの有力な選択肢になり得ます。

  • ウ 株価を下落させるための何らかの方法がとれないか。

    税理士、公認会計士等と連携しながら、株価を下落させる方策について検討し、機動的に実行していきます。

  • エ 本当に譲渡を不承認とする必要があるか。

    株主の意図が譲渡を盾に高額で買い取らせることだとすれば、譲渡を承認せずに会社やオーナーによる買取を行うことは株主の思う壺です。第三者へ譲渡された場合のリスクを正しく把握し、真に会社が買い取る必要があるか検討しましょう。

  • オ 持ち株比率の希釈化ができないか。

    新株発行や新株予約権無償割当の方法により、オーナー側の持株数を増やせば、請求株主の持ち株比率を希釈化することができます。これにより特別決議要件をオーナー側で握ってしまえば、譲渡されても会社運営の意思決定上、致命的な影響は避けられます。ただし、希釈化自体を目的として新株を発行することは、「著しく不公正な方法」として新株発行の差し止め請求が行われる恐れもあるため、資金調達目的が優越している等、状況を見て新株発行の可否を判断する必要があります。

株価を巡る紛争は最終的には法廷で決着を付けることができますが、株主もそのような重たい手続を行うことを望んでいるということは考え難く、何らかの落としどころを探っているはずです。法廷闘争になった場合の最悪の事態をシミュレーションしつつ、被害を最小化するための手段を機動的に取っていくことが株主との交渉を進めていく上で重要です。

ひと口に株式の買取請求がされた場合の対応といっても、その株主の意図、株式数、会社のキャッシュの状況、今後の資本戦略等によって取るべき手段は全く変わってきます。

株主からの株式買取請求でお悩みの企業様は、ぜひ一度当事務所の無料相談をご利用ください。

5. 利益相反取引

弟に会計帳簿を見せたところ、DEF社との取引が怪しい、DEF社に利益を付け替えているのではないか、本来ならABC社はもっと利益が出ていて私への配当も可能なのではないかといった主張がありました。

DEF社というのは、私とその仲間が出資して新しく設立した会社で、ABC社の業務の一部の下請を担っています。DEF社に利益が若干生じていることは事実ですが、不当な金額ではなく、利益の付け替えと評価されるものではないと思っています。

ABC社とDEF社の取引は、場合によっては利益相反取引に該当します。そうなると、DEF社との取引によるABC社の損失を社長が会社に賠償しなければならない事態となりかねません。

取締役が、自己又は第三者のために株式会社と取引することは「利益相反取引」(356条1項2号)として会社法上規制されています。 具体的には、ABC社の社長であるX氏が

  • 自らABC社と取引すること
  • DEF社の社長としてABC社と取引すること
  • 100%株式を保有する会社とABC社が取引すること(名古屋地判昭和58年2月18日判時1079号99頁、福岡高判平成24年4月10日判タ1383号335頁)

は、利益相反取引に該当しますので、株主総会普通決議(取締役会設置会社の場合は取締役会決議)による承認が必要です。

さらに、X氏がDEF社の過半数株式を有していなくても、役員派遣や物的人的援助を通じ、事実上の主催者としてDEF社を支配しているときは、ABC社の機関承認が必要と判断した裁判例もあります(大阪高判平成2年7月18日判時1378号113頁)。

この事例でも、仮に弟がX氏を訴えると、X氏のDEF社の持株比率や代表取締役への就任の有無、DEF社の経営の支配の程度によってはABC社の機関承認が必要と判断される恐れがあります。いずれにしても弟さんからの配当の要求に応える必要はないのですが、このような事例では、弁護士としては、弟さんの主張が法的に正当なものであるのか、裁判所で認められる可能性があるのかを検討の上、必要に応じてABC社とDEF社の取引を適正化することを考えることになります。

ビジネスを行う上で、実は、このような会社法の手続が必要になる場合もあります。DEF社を下請とするというアイディアについても、弁護士に相談していただければ初めから適法な形で行うことができたはずです。

トラブルを抱えていない会社であっても、顧問弁護士を契約しておくことは、ビジネスを行っていく上でも重要です。当事務所の顧問契約の内容や月額につきましては、企業様のご希望、事業規模、対応が必要な業務量や業務分野等に応じて、月額3万3千円から(消費税込)を目安として、柔軟に設計することができますので、お気軽にご相談ください。