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相続放棄をした相続人に振り込まれた生命保険金の性質と単純承認との関係

Q

当社は,Aに債権を有しておりましたが,この度Aが死亡し,Aの相続人は相続放棄をしました。Aの相続人が相続放棄をした後,当社は,Aの相続人の一人が,Aが契約者となっていた生命保険金を受け取った事実を把握しました。その生命保険金の内容について調べたところ,「利益剰余金」という名目のAが生前に納めていた生命保険料の前払分の返戻金(Aの保険会社に対する債権)が含まれていることが分かりました。
相続人がAの財産を消費すれば単純承認事由(民法921条3号)に該当するところ,相続人が利益剰余金を受領することは単純承認に該当するのではないでしょうか。

A

相続放棄をした相続人が利益剰余金を受領したとしても民法921条3号の適用はなく,単純承認したことにはならないと考えます。
同号は,相続放棄をして相続財産を取得しないという意思を表明しながら相続財産を消費するという背信行為をおこなった者に対して,単純承認による無限責任を負わせるという民事的制裁を課す規定です。したがいまして,背信行為に対して無限責任という制裁を与えるためには,背信行為が相続放棄の利益を奪うに足りる程度の背信性を有するものでなければならず,ごく軽微な背信行為は単純承認事由に該当しないと考えられております。
ご質問の利益剰余金は,生命保険金を受領する際に必ず含まれており,生命保険金を受領する際には利益剰余金も受領せざるを得ないものといえます。そうしますと,利益剰余金を受領する行為については,背信性がないか,あるいは,背信性の程度が極めて軽微であると考えられますので,利益剰余金を受領したとしても単純承認したことにはならないと考えます。
なお,相続税法基本通達第3-8によると,生命保険金とともに支払を受ける保険料の前払分の返戻金は生命保険金(相続人固有の財産)に含めることとされており,相続人が被相続人の収めた保険料の前払分の返戻金を受領したとしても,被相続人の財産を取得したことにはならないないと規定され,金融実務において通用しており,参考になります。

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