- 人事労務問題
横領の疑いのある死亡社員の遺族に対する退職金支払拒否の可否
Q
当社の従業員が死亡したのですが,その後の社内調査の結果,死亡した従業員が多額の金員を横領していた可能性が高いことが判明しました。
当社の就業規則上は,懲戒解雇のときに退職金を不支給とする旨を定めているだけで,それ以外の不支給事由の定めはしていなかったのですが,今後のさらなる調査によって横領の事実を立証できた場合,遺族に対する退職金支払はしなくともよいでしょうか。
また,仮に退職金を支払わなくはいけないとしても,横領した金員と相殺することで支払を免れることはできないでしょうか。
A
貴社の場合,他の多くの会社と同様に,懲戒解雇のときだけ退職金の支払を拒否できることになっていますが,社員が死亡した以上,今から懲戒解雇処分はできません。
したがって,たとえ本来であれば懲戒解雇ができたであろう事情があったとしても,実際に処分を下す前に死亡によって退職の効力が生じている以上,原則として退職金の支給は免れません。
ただし,裁判例の中には,「退職金の性格(特に功労報償的性格)に照らすと,同労働者において,それまでの勤続の功を抹消又は減殺する程度にまで著しく信義に反する行為があったと認められるときは,使用者は,同労働者による退職金請求の全部又は一部が権利の濫用に当たるとして,同労働者に対する退職金を不支給又は減額できる場合がある」として,懲戒処分前に退職していた従業員による退職金請求が権利濫用により許されないという判断を下したものもあり,労働者の背信性の程度いかんによっては懲戒処分を経ずとも退職支払義務を免れられる場合もあります。
貴社のケースでも,従業員の横領行為の内容や事実経緯いかんによって,退職金の支払を免れられる可能性はあるものと思います。
また,退職金支払義務が否定できなかったとしても,横領の事実が立証できれば,遺族に対して横領金相当の損害賠償請求や不当利得返還請求をすることができる可能性はあります。このような請求が認められる場合でも,退職金が賃金の後払い的な正確を有するものであって賃金全額払いの原則の適用がある以上,会社の側から一方的に相殺することは許されない可能性が高いと思いますが,遺族の個別の同意を得て相殺をすることは可能です。
ただし,いずれにしても,遺族が相続放棄をした場合には遺族への横領金の請求はできなくなります。一般的に遺族による死亡退職金請求権は遺族固有の権利として扱われる場合が多く,その場合には相続放棄をしたとしても死亡退職金請求はできることになるため,この場合は実際に退職金を支払わざるを得ないということになるものと思います。
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