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株式買取請求(後編)株主から株式買取請求を受けた場合の会社の対応

Q

当社は,発行済株式総数1000株の株式会社です。株式は証券取引所には上場しておらず,すべての株式には譲渡制限が付されています。
当社の株式は,会社発足時に創業者である父の親戚や知人などに1株1万円で出資してもらい発行しました。
この度,当社の株式250株を有するD氏から突然,D氏が所有している株式250株を知人に売却したいと思っている,もし売却を認めてもらえないのであれば会社に900万円で買い取ってほしいと連絡がありました。
当社は,この請求に応じなければならないのでしょうか。

A

【回答】
買取の請求に応じることは法律上の義務ではありません。ただし,株式が第三者へ譲渡される可能性,及び,譲渡された場合のリスクについて理解し,対応を検討する必要があります。

【解説】

前回のQで,譲渡制限株式の譲渡承認請求とこれに伴う株式買取請求の流れについて解説しました。
今回は,そのような請求をされた場合に会社が何を考え,どのように対応すればよいのかを具体的に検討していきます。

1.株主から株式の買取を請求されるのはなぜか?

株主は,株式を取得する対価として出資します。
株主が株式によって金銭的満足を得る方法は大きく2つあり,ひとつは配当金を得る方法,もうひとつは出資時(取得時)よりも高い金額で株式を売却する方法です。
配当性向が低かったり株主がまとまったお金を必要とした場合,当初の株主(出資者)が亡くなり相続人が株式を現金化しようとする場合,あるいは出資した時点では良好な関係であったが後に不仲となった場合など,株主から株式の買取を請求される事案は少なくありません。当事務所でも,これまでに複数の企業様からご相談をお受けしています。

譲渡制限株式は,上場株式などと違って市場で売却して株式を金銭に変えることができません。しかし,前回のQで解説したとおり,株主は,譲渡制限株式の譲渡承認請求に併せて,会社に対し,譲渡を承認しない場合は会社か会社が指定する第三者が買い取るように請求できます。
譲渡承認+株式買取請求というこの手段は,譲渡制限株式の現金化手法としてよく用いられています。

3.譲渡承認の際に検討すべき事項

株式を第三者へ譲渡することを認めれば,会社が株式を買い取る必要はありません。
しかしながら,株主によっては次のような株主権が行使されるリスクも念頭に置く必要があります。したがって会社から見て好ましくない人間が株主になることは避けたいところです。
■単独株主権(1株以上)
 ・定款閲覧謄写請求権(31条)
 ・株主総会議案提案権(304条)
 ・株主名簿閲覧謄写請求権(125条)
 ・株主総会議事録閲覧謄写請求権(318条)
 ・取締役会招集請求権(367条)
 ・取締役会議事録閲覧謄写請求権(371条)
 ・株主代表訴訟提起権
  (取締役の善管注意義務違反を理由とする損害賠償請求など)(847条)
■議決権の100分の1以上または300個以上
 ・株主総会の議題提案権(303条)
 ・株主総会の議案要領通知請求権(305条)
■議決権の100分の1以上
 ・株主総会の招集手続等に関する検査役選任請求権(306条)
■議決権の100分の3以上または発行済株式総数の100分の3以上
 ・業務執行に関する検査役選任請求権(358条)
 ・会計帳簿閲覧謄写請求権(433条)
 ・役員(取締役,会計参与及び監査役)の解任請求権(854条)
■議決権の100分の3以上
 ・株主総会招集請求権(297条)
■議決権の100分の10以上または発行済株式総数の100分の10以上
 ・会社解散請求権(833条)

他方で譲渡を承認しない場合は会社または会社が指定する第三者(オーナー等)が買い取る必要があります。

残念ながら,法が株主に株式譲渡不承認時の株式買取請求権を認めている以上,譲渡を承認しない場合は,会社やオーナー等による買取が必須です。とはいえ,会社側としても株主に言われるがまま応じるのではなく,次のような事項を検討し,戦略的に対応していくことが可能です。

(1) 積極的に自社株を取得する選択はないか。
仮に現在株式がオーナー以外の第三者に分散しているとすれば,現在株式の買取を請求してきている株主以外からも,今後同様の請求がなされ,同じように対応に追われる可能性は否定できません。そのため,請求された機会を利用してオーナーに全株式を集中させることも考えられます。方法としては,株式併合,単元株制度の導入,あるいは完全無議決権化,支配株主による売渡請求などがあり,そのときどきの会社の状況に応じて手段を講じることになります。
自社株の取得は,会社から多くのキャッシュが流出するため短期的にはマイナスに見えても,オーナー企業になることで会社運営の機動力が確保されることは,長期的には,株主総会を実開催する必要がなくなったり,合併等の組織法上の行為や事業上の重要な事項を単独で決定できるようになるなど,プラスが大きい場合もあり得るでしょう。

(2) 配当性向の見直しにより株主との関係改善を図ることはできないか。
これまで配当を行っていない会社や利益に比して配当が少なかった会社としては,配当を行うこと,あるいは増やすことに抵抗があるのは当然です。しかしながら,株式投資とは本来的に,「会社に対して投資して株式を取得し,株式数に応じた配当を得る」ものであるため,利益が出ていれば一定の配当を行うべきことはやむを得ません。
一定の配当によって株主との関係が改善され,会社運営に協力してくれるようになるのであればそれもひとつの有力な選択肢になり得ます。

(3) 株価を下落させるための何らかの方法がとれないか。
税理士,公認会計士等と連携しながら,株価を下落させる方策について検討し,機動的に実行していきます。

(4) 本当に譲渡を不承認とする必要があるか。
株主の意図が譲渡を盾に高額で買い取らせることだとすれば,譲渡を承認せずに会社やオーナーによる買取を行うことは株主の思う壺です。第三者へ譲渡された場合のリスクを正しく把握し,真に会社が買い取る必要があるか検討しましょう。

(5) 持ち株比率の希釈化ができないか。
新株発行や新株予約権無償割当の方法により,オーナー側の持株数を増やせば,請求株主の持ち株比率を希釈化することができます。これにより特別決議要件をオーナー側で握ってしまえば,譲渡されても会社運営の意思決定上,致命的な影響は避けられます。

株価を巡る紛争は最終的には法廷で決着を付けることができますが,株主もそのような重たい手続を行うことを望んでいるということは考え難く,何らかの落としどころを探っているはずです。法廷闘争になった場合の最悪の事態をシミュレーションしつつ,被害を最小化するための手段を機動的に取っていくことが株主との交渉を進めていく上で重要です。
ひと口に株式の買取請求がされた場合の対応といっても,その株主の意図,株式数,会社のキャッシュの状況,今後の資本戦略等によって取るべき手段は全く変わってきます(本記事で扱った,会社の側に立った株式買取請求への対応に関する記事がインターネット上にあまり存在しないのはこのためです。)。
株主からの株式買取請求でお悩みの企業様は,ぜひ一度当事務所の無料相談をご利用ください。

なお,本記事でご紹介したところからお分かりいただけるとおり,株式の譲渡承認請求とこれに伴う株式買取請求は,非常に株主に有利に制度設計がなされているため,譲渡承認請求がされると会社はタイトなスケジュールの中難しい判断をしたりキャッシュの用意をしたりする必要があり,これは非常にタフな作業となります。
したがって,問題が生じていない段階で少数株主対策をしておくこと=攻めの法務が,会社にとっては重要です。

「今のところ問題は無いが,少数株主がいる。」

そんな会社のオーナー様は,ぜひ当事務所へご相談にお越しください。

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