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株式買取請求(前編)株式譲渡承認・株式買取請求の流れと価格決定手続
Q
当社は,発行済株式総数1000株の株式会社です。株式は証券取引所には上場しておらず,すべての株式には譲渡制限が付されています。
当社の株式は,会社発足時に創業者である父の親戚や知人などに1株1万円で出資してもらい発行しました。
この度,当社の株式250株を有するD氏から突然,D氏が所有している株式250株を知人に売却したいと思っている,もし売却を認めてもらえないのであれば会社に900万円で買い取ってほしいと連絡がありました。
今後の流れについて,教えてください。
A
【解説】
1.譲渡承認請求・株式買取請求とは何か?
一般的に,株主には,会社に対して「自分の株式を買い取ってくれ」という権利があるわけではありません。
しかしながら,組織再編(合併など)に反対する場合など,株主には,特定の場合に会社に対して自己の株式を買い取るよう請求できる権利が与えられています。これを「株式買取請求権」といいます。
その中でとりわけ重要といえるのが,譲渡制限株式の株主による,譲渡承認請求が不承認とされる場合の株式買取請求権です。
譲渡制限株式とは,会社の承認が無ければ第三者へ譲渡することが出来ない株式をいいます。非上場会社の株式の多くは,譲渡制限株式です。
2.譲渡承認請求がされた場合に必要な会社の対応
株主から譲渡承認請求がなされると,会社は,定款に別段の定めがない場合,取締役会設置会社の場合は取締役会決議により,取締役会非設置会社の場合は株主総会普通決議によって譲渡を承認するか否かを決定し,2週間以内に株主に対して結果を通知しなければなりません(139条,145条1号)。2週間以内に不承認通知がなければ,譲渡を承認したものとみなされます。
株主からの譲渡承認請求の際,買取先指定の請求(株式買取請求)が一緒になされていると,会社が譲渡を不承認としようとするときは,その譲渡対象株式を会社または会社の指定する指定買取人が買い取る義務が発生します(140条1項)。
したがって,会社は,譲渡を不承認とした場合,会社と指定買取人のどちらがその株式を買い取るかを決定する必要があります。この決定は,取締役会設置会社の場合は取締役会決議により,取締役会非設置会社の場合は株主総会特別決議によることとされています(140条2項,5項及び309条2項1号)。
指定買取人が買い取る場合には不承認通知から10日以内に,会社が買い取る場合は不承認通知から40日以内に,それぞれ株主に対し買取通知をする必要がありますが,会社は,この買取通知とともに,1株当たりの純資産額×譲渡株式数(簿価純資産額)を供託して供託証明書を取得し,供託証明書を交付しなければなりません(141条2項,142条2項,145条3号)。
期限内に買取通知ができない場合も譲渡を承認したものとみなされます。株主総会招集手続,供託手続なども考えるとタイムスケジュールは非常にタイトですので,スピード感を持った対応が求められます。
3.株式価格の決定手続
株式の価格は両当事者の協議により定めることができるほか,当事者双方に裁判所に対して売買価格決定の申立てをする権利が与えられています。会社からの買取通知から20日以内にこの申立てがなされると,裁判所での売買価格決定手続に移行します。
他方で,20日以内に両当事者いずれからも申立てがなければ,供託された金額での売買契約が成立したものとみなされますが,上述のように供託金は1株当たりの純資産額×譲渡株式数(簿価純資産額)として法定されていることから,場合によっては非常に高額となるため,会社としては,この申立を行って裁判所での価格決定手続を経て,株価を下げようとするはずです。特に,買取対価が分配可能額を超えると業務執行者に欠損填補等の責任(462条1項柱書,465条1項1号)が発生し得る点にも留意しなければなりません(※)。
株価の算定方式は,大きく分けると次の4つ(5つ)です。会社の配当性向や内部留保次第では,どのモデルを採用するかによって算定される株価が大きく異なることがあります。
(1)配当還元方式
~配当還元法,ゴードン・モデル
(2)収益還元方式
~収益還元方式,DCF法
(3)比準方式
~類似業種比準方式,類似会社比準方式
(4)純資産方式
~簿価純資産方式,時価純資産方式
裁判事例では,上記1から4の評価方法を折衷する方法が採用される例が多いです。たとえば,配当還元方式による株価と純資産方式による株価を7:3の割合で加重平均して求めるといった方法です(これを折衷方式(加重平均方式)ということもあります。)。
裁判所での価格決定手続により株式の価格が決定すれば,その価格が売買価格として確定することになります。
売買価格が確定したときは,供託金の額を限度として売買代金が支払われたものとみなされます(144条6項,7項)。
売買代金の支払が行われない場合,譲渡承認請求をした株主は,債務不履行により,相当な期間を定めて支払を催告し,売買契約を解除することができます(民法541条),売買契約が解除された場合,譲渡承認があったものとみなされます(145条3号,規26条3号)。
4.小括
譲渡承認請求がなされると,会社は譲渡を承認するか否かを決定し,不承認とする場合には株主総会や供託,裁判所への申立てといった手続を,法定された期間制限に注意しながら進めていくことになります。
もっとも,裁判所での価格決定手続まで行うとなると,非常に大きな時間とコストがかかります。特に,供託金は1株当たりの純資産額×譲渡株式数(簿価純資産額)と非常に高額になる恐れがあります。
そこで次回のQ&Aでは,このような請求をされた場合に会社が考えるべき方策について,検討していきます。
(※)462条1項柱書の責任は,金銭交付を受けた悪意の株主にも適用されます。
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